「Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章」を読んで
Humankind 希望の歴史 人類が善き未来をつくるための18章 ルトガー・ブレグマン 文藝春秋
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人の本来の姿は善なのか、悪なのか。古くから人類はその議論を「性善説」「性悪
説」として論を進めてきました。
現在では「正直者が馬鹿を見る」のように「性悪説」を土台にしないと社会の制度
設計が上手くいかないという意見が支配的です。
本書はこの問題に対して強く「性善説」を主張します。
人は本来、周りの人達に親切にしてしまう「性善説」の生き物であるということ、
現在ではそれが妨げられてしまっていること、そして本来の人間を取り戻す美しい
数々の試みがつづられています。
近代では「性悪説」を裏付ける数々の実験や事件が発表されてきました。
スタンフォード監獄実験
1971年に米スタンフォード大学で行われた実験。
学生の被験者を「看守」役と「囚人」役に分けることで、それぞれが役割に相応し
い態度を取るようになったと主張する。「看守」役はより権威的に振る舞い、「囚
人」役は命令に従い、より従順に行動した。
ミルグラムの電気ショック実験
1963年に米イエール大学の心理学者ミルグラムが発表した実験。被験者に電気ショ
ックの拷問を与える役目を与えると、多くの被験者がそれに積極的に従った。
例え、拷問を受ける者が生命の危険があるような状況でも、その行動を止める者は
限られていたと報告されている。
実際には電気ショックはなく、拷問される側の人間は演技で苦しむ様を見せていた。
キティ・ジェノヴィーズ事件
1964年に米ニューヨーク州で起こった事件。キティ・ジェノヴィーズが帰宅時に自
宅近くで通り魔に襲われ殺害された。キティは周囲に助けを求めたが、近所の人達
は誰も外に出て彼女助けなかったし、警察に連絡しなかったとされている。
割れ窓理論
「割れ窓」のような軽微な犯罪を放置しておくと、その地域がより大きな犯罪を招
きやすくなる。犯罪抑止のためには「ごみのポイ捨て」等の軽微な犯罪を厳格に取
り締まることが効果的だとする犯罪抑制理論。
イースター島の歴史
モアイ像で有名なイースター島は、本来は緑豊かな、巨石を操るほどの文明を持っ
た社会であったが、部族間の争いで資源を浪費した結果、遂には共食いをするほど
にまで島の水準が落ちぶれてしまったとする説
こういった話を一度は耳にした方も多いと思います。これらは全て人間は残酷で愚
かで自分勝手な生き物であるということを私達に印象付けます。
それだからこそ、社会の制度で人間を縛らなければならないと私達は考えてきまし
た。
ところが本書は、これらの実験や事件が全て恣意的に操作されたものであると明ら
かにします。
実験は最初から結論ありきで、調整されたものであり、通り魔に襲われたキティも
近所の人の腕の中で不幸な最期を迎え、割れ窓理論も刑務所の受刑者を増やしただ
けで総合的にみれば社会の犯罪を拡大しているのです。
イースター島も部族間の戦争やカニバリズムが島を崩壊させたのではなく、島を発
見した西洋人が島の文化を壊した可能性が高いのです。
これは私としては、かなり驚かされるものです。これらの実例は有名なもので多く
の人が一度は耳にしたことがあると思います。これらが嘘であるとすると、アカデ
ミックな研究も所詮は世の中の流行りに影響されて真実まで歪められているという
ことになります。
今まで真実とされてきたことがひっくり返されたとしても、それがまたひっくり返
るかもと考えてしまい、何が真実なのか分からなくなってしまいます。
その他にも人間の善良さを示す例が描かれています。敵を倒すなければ自分が殺さ
れる戦場でも多くの人は敵を殺すことが出来ません。古代や中世の戦場では死傷者
は飛び道具によって生み出されています。近代でも爆撃や砲撃といった目に見えな
い攻撃手段が死傷者の原因となっています。
ほとんどの人は戦場でも人を殺せないのです。現代の米軍では、その人間性を捨て
る訓練を実施して兵士を育成しています。その結果、兵士は精神に重大な傷を負う
ことが多いようです。
それでは、このように本来は「性善説」の人間が現在のような「性悪説」の社会を
作っているのでしょうか。
筆者はそれを新石器時代以来の定住生活に原因を求めます。社会に硬直的な権力構
造ができ、権力は悪と親和性が高くなったと説きます。
「性悪説」の社会は長年、続いてきたものですが、それを覆すことは不可能ではな
いことを筆者は美しい様々な実話で示していきます。
マネジメントを職員の自主に任せるオランダの介護組織
ルールや安全規則のないデンマークの公園
オランダのクラス分け、教室、宿題、成績のない学校
ベネズエラ・トレスの直接地方自治
ノルウェーのリゾートのような刑務所
ネルソン・マンデラの物語
1914年の第一次世界大戦中の自発的クリスマス休戦
コロンビアでの対ゲリラ広告戦略
どれも信じられないような美しい話ですが、全て実話なのです。これらの話を知る
ことで私達の「性悪説」が「性善説」に変化していきます。
騙されないように相手を疑うことは決して自分が得をする行為ではないのです。騙
されるリスクを少しぐらい負担した方が全体としてみたら、得をする社会が作れる
ということを、これらの実話は示しています。
未来に希望をもたらす美しい実話たちを是非ともお読みください。
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