米中関係、そして、その派生現象である日中関係について考える。
米中関係、そして、その派生現象である日中関係について考えたく以下の本を読んだ。
米中戦争 そのとき日本は (講談社現代新書) 渡部 悦和
中国人民解放軍の全貌 (扶桑社新書) 渡部 悦和
日本の有事 – 国はどうする、あなたはどうする? – (ワニブックスPLUS新書) 渡部 悦和
「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか 遠藤誉 PHPエディターズ・グループ
最初の3冊は、全て、渡部悦和氏の著書。著者は東大卒で陸上自に入り、最終的に東部方面
総監にまでなった人物。自衛隊の論理と日米安保の一方の当事者である米軍の論理を説く。
簡単に筆者の主張を書くと、将来的に中国は「台湾」や「南沙諸島」で軍事行動を起す可能
性があり、それに対して米軍は準備をしているということ。互いへの核攻撃を避ける限定的
なシナリオをアメリカは想定。以前では両地域での紛争でも米軍が優位を保ってきたが、現
在では中国の支配圏に近い「台湾紛争」では互角のものとなっている。
これらの両紛争の準備段階として沖縄を含む南西諸島への軍事行動が予測される。米軍は中
国軍のファーストアタックを回避するため、日本から一時的に撤退し、その後、再び侵攻す
ることも考慮している。
「尖閣」については、前述の大規模な軍事行動の一環としてではなく、中国軍の予備役でも
ある「海上民兵」による軍事活動が懸念される。この場合、最初から自衛隊が事態に対処す
ることが難しくなり、海上保安庁の手に余る事態になったときは、期を逸している可能性が
あるということである。
米軍はレールガンやレーザー兵器の開発を進めており、それが完成すれば今までの弾道軌道
のミサイルでの攻防に劇的な変化をもたらすということで「ゲームチェンジャー」として紹
介されています。
まとめると中国の暴発を思いとどまらせるためには、軍事的な準備が必要であり、米軍は着
々と、その準備を進めている。日本も、それに対応する準備をするべきだとなります。
4冊目のものは遠藤誉氏のものです。中国の経済政策、特に技術的な側面について書かれて
います。同氏は幼少期、中国・国共内戦で家族を失い、残った家族共々、奇跡的に生還した
人物です。中国政治研究の大家です。
「中国製造2025」とは、2025年までに半導体70%の自給率と宇宙開発(有人宇宙飛行、月開
発、宇宙ステーション)を進めるという中国の政策目標です。
本書では、この計画が、順調に驚くほどの位置まで進められている様を描いています。トラ
ンプの始めた「米中貿易戦争」が唯一、この計画の障害です。
現在、中国でトップの清華大学が経営する半導体企業・清華紫光集団、そして現在、米国か
ら圧力を受けている華為(ホァーウェイ)という中国のトップ半導体企業について書かれて
いる。
私の頭では、まず国立大学が大規模な半導体企業を経営し、積極的にM&Aも進め、世界的
な影響力を拡大しているという事実についていけない。大学に、そのような力と能力がある
のか。もはや、それは私達が思っているような「大学」というものではない。
華為も驚くべき存在です。非上場企業ですが、その理由の一つが総裁の持ち株比率が僅か1.3
%で、その他の株は全て従業員が持っているのです。アップルをスマホの出荷台数で抜いた
企業とは思えません。ホァーウェイの利益は従業員の利益に直結しているのです。おまけに
会長が3人いて輪番制で半年で交代することにより、個人支配を抑制しているそうです。
このホァーウェイに対する中国国民の支持も圧倒的です。昔日の松下やソニーを何倍もグレ
ードアップしたものが、今のホァーウェイかもしれません。筆者も米国があげるホァーウェ
イへの疑念を調べています。軍が裏で関与しているのではないか、米国企業から技術を盗ん
でいるのではないか、スマホから顧客情報を盗んでいるのではないか。結果として出てきた
のは疑念を裏付けるものは発見できなかったということだけでした。
ホァーウェイの驚異的な発展は多くの海外の中国人研究者が中国に帰国してホァーウェイの
ために働きたいと思ってきた結果なのかもしれません。ホァーウェイは、それほど魅力的な
企業なのです。そしてホァーウェイは今も、その理想を追求しています。
半導体製造装置のトップ企業、アプライドマテリアルズでの13年を含み24年間も米国で半導
体製造装置の研究に従事した尹志堯も中国に帰国し、新会社を設立します。これで中国の半
導体製造装置の未来は安泰だと言われています。
こういった企業が中国の産業が独立するために仕事をし、それを世界中の中国人が支援して
います。トランプの「米中貿易戦争」以後は、この勢いに拍車がかかっています。
私見ですが、トランプの政策は中長期的に見れば米国経済のマイナスにしかならないでしょ
う。
宇宙開発でも中国がトップランナーです。既に量子暗号通信機器を搭載した人工衛星が実用
化されています。量子暗号とは、現在、最高の暗号技術で、理論的に通信の双方に探知され
ない状態で盗聴することができない技術です。これが可能になれば中国の通信を探知するこ
とは、かなり難しくなるでしょう。
2024年に運用が停止される予定の現在の欧米中心に使用されている国際宇宙ステーションに
代わって、中国独自の宇宙ステーションを2022年には運用する計画です。
月には単なる探査の段階を超えて2030年までに月面に研究開発ステーションを建設し、ロボ
ットを使った資源調査を開始する予定です。核融合発電に必要なヘリウム3の採取を目指しま
す。
月以外では火星や木星や小惑星の探査も計画されています。まだ世界が海のものとも山のも
のとも判別できないで躊躇している分野に中国は莫大な資金と人材をつぎ込んでいます。こ
んなことができる国は他にありません。量子コンピューターの分野でも世界のトップを走っ
ています。日本や欧米はこのような真似は出来ません。順調に進めば次の世界の覇権を握る
のは中国でしょう。
渡部氏は中国に対しては、その政権が非常に不安定だと指摘します。そして、その政権の正
統性や安定性を確保するために対外進出を進めるのだと説きます。
それ故、それに対抗する日米の今まで以上の対応が必要だとします。
私は中国がそれ程不安的な状態にあるとは思えません。まだいくつものカードが切れるよう
な状態です。普通に考えれば徐々に中国が有利になっていく状況で中国が暴発するという愚
かな行為をする可能性は低いでしょう。なんとかして中国が崩壊してくれないか、戦力が整
う前に攻めてきてくれないかと願っているのは、むしろ米国の方です。
米国の方が早い段階で中国と一戦交えることで自らの覇権を維持することが出来ると考えて
いるという見立ての方が自然です。渡部氏の論理には、その米国のいや、正確には米軍の本
音が隠されています。そして、そのことが分かっているであろう中国は、決して米軍と戦争
をすることはないはずです。
米軍は仮想敵国を作り、自らの存在意義を保つことが必要ですが、少なくとも米国の一部、
現在のトランプ政権はそれとは異なる政権運営を行っています。脅しはかけるが戦争だけは
回避する。トランプが行っていることは口先では威勢がよいが、本当には喧嘩をしない番長
のようなのものです。
米軍や軍産複合体が考えている中国とトランプが見ている中国とは異なっているようです。
その違いをあからさまにしないというのが米国の大人の論理です。
日本はある程度は米軍にお付き合いをしながら、米中の根本的な対立を避けるように政治的
に動くべきです。
「戦争が起こり東アジアが被害を被りながら中国を撃退する未来」と「戦争を避けることで
米国から中国へ覇権移譲を東アジアは傷つかないで成し遂げる未来」。
アジアから遠く離れた米国ならばアジアがどうなろうが知ったことではないので選択肢は一
択です。でもアジアに住むものにとっては、どちらの未来を選ぶかは、様々な条件で変化す
るものです。
遠藤氏も、この圧倒的な「中国製造2025」を防ぐにはトランプの貿易戦争に日本が協力する
しかないと説きます。
果たして、その程度のことで中国の勢いが止まるのでしょうか。もはや個人の好きと嫌いに
かかわらず中国の次世代覇権は避けられないものだと私は考えます。日本は、その不都合な
未来に対して生き残る戦略を再構築するしかないのだと思います。
もはや政治でも経済でも軍事でも中国に日本が単独で勝つことなど考えられません。そして
アメリカでさえも、本当のところは、それを諦めようとしています。北朝鮮でさえ空爆出来
なかったアメリカが中国相手に戦争が出来るはずがありません。
2018年、米朝首脳会談に至るまで、米軍はかなりの覚悟で限定的な戦争を北朝鮮相手にやる
つもりでした。それでも、実際には出来なかった。それはトランプのせいなのかもしれない。
それでも、そこが米国の限界なのだと私は思います。中国との戦争の計画はするでしょう。
しかし、それは軍産複合体が生き残る糊口をしのぐためのもので、本当に戦争をするための
ものではありません。
改めて言います。北朝鮮と戦争が出来ないような国が中国と戦争が出来るはずがありません。
日本は、その現実を見つめる必要があると思います。
渡部氏も遠藤氏も非常に聡明な人です。その方々が、もはや中国を止めることは出来ないと
いうことに気付かないとは、とても考えられません。それは自分が属する利益共同体の意図
に沿った発言をするしかない状態に置かれているのか、それとも真実を見極める眼が曇って
いるに違いないでしょう。
本当に人をだますには嘘ばかりではいけません。8割、9割の真実の中に、本当に大切な部分
だけ嘘やごまかしを混ぜるのです。二人が隠したい真実は何でしょうか。それは、最早、中
国への覇権移行は避けられないということです。
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