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「ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀: 公正な社会への資本主義」を読んで

ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀: 公正な社会への資本主義

エリック・A・ポズナー E ・グレン・ワイル 東洋経済新報社

 

シカゴ大学法学部教授のエリック・ポズナーとマイクロソフト首席研究員のグレン・
ワイルによって書かれた本書は驚くような政策提言に満ち満ちています。

本書でも最大級の革命的な政策提言の根本にあるアイディアは「所有とは独占である」
というです。「所有」とは、そのものを自分の思うように使用したり、使用しなかっ
たり、処分したりすることが自由に出来るということです。

当然、それは他人がそのものを勝手に使えないということでもあります。これは「独
占」であるというのが本書のアイディアの根本です。もし、そのものを、もっと有効
に使用できて社会の役にも立つ人がいた場合でも所有者が許さなければ、その使用は
不可能です。

例えば中世は様々な既得権益が絡み合って土地利用も有効でない場合が多々ありまし
た。それが資本主義の社会に変わって土地が自由に売買できるようになり、より有効
な使用法を持つ者に土地が利用できる道が開けるようになりました。

今度は資本主義が持つ所有権が、あるものの有効利用を妨げる場合が生じてきていま
す。分かりやすい例では道路や鉄道の新規設置における既存の土地所有者からの土地
買収があります。

もうすでに大方の土地買収が終わっている鉄道会社に対して最後に残った土地所有者
が法外な土地譲渡金額をあげた場合はどうでしょうか。その土地を取得できない会社
は鉄道建設の全てをあきらめるしかなく、今までの開発費用を無駄にしないためには
その条件を飲むしかありません。

その場合は、最後の土地所有者が法外な利益を獲得し、会社やその利用者の顧客が不
利益を被ることになります。こういった個人の所有権を国や地方自治体が行うと強制
収用となります。いずれにせよ封建制度社会から資本主義社会になることで土地とい
う公共財が有効利用されるという比率が拡大した訳ですが、これに「所有」が縛りを
かける場合があるということです。

それでは、本書の提言の「所有」を消滅させてしまうアイディアとは、どんなもので
しょうか。

あるもの、ここでは土地を例にあげましょう。その土地の所有者は常にその土地の値
段を公示します。そして、その値段が提示されれば、その土地を売らなければなりま
せん。そしての提示した値段に対しての一定の税金を国に毎年、払う義務が生ずる。

こういったシステムです。土地所有者は、その土地を所有し続けたいなら、高額の値
段を提示するしかなく、高額の値段は高額の納税につながります。本書では7%の税
率を提案しています。この制度では有効利用も出来ないのに土地を所有することは出
来なくなります。土地は最も有効利用が出来る者が使用するべき公共財になってしま
います。つまり今までの「所有」が無くなってしまうわけです。

これをCOST(common ownership self-assessed tax)共同所有自己申告税といい
ます。

COSTを土地所有に関して行うと、いろいろな問題が出てくることが想像できます。
例えば収入が少ない人達が今まで「所有」していたはずの住居から追い出されたりと
かが考えられます。しかし、その多くは制度上の調整、例えば自分が住む住居に対し
て、一人一軒はCOSTを免除出来るとかにすれば、滞在を目的とした住居保持は許可
され、それ以上の投資や営業を目的とした土地や住居維持には多額なCOSTが必要だ
ということに出来ます。

根本になっている考え方「全てのものは個人の持ち物ではなく公共物なのだ」は、大
きな可能性を秘めています。

例えばCOSTが最も効果的に使用できるのは「電波オークション」でしょう。現在、
日本においては企業が使用する電波は行政が割り振っています。電波を使う企業とし
てはテレビやラジオのメディア産業や携帯電話のキャリア企業があります。

この制度の問題点は行政が本当に適切な電波割合を判定できるのかということと行政
の恣意的な監督が個々の企業になされる可能性が十分に考えられることです。

この電波の割振りにCOSTを使用すれば、電波使用企業でも既にそれに必要な利益を
上げられない企業は退出せざるを得ないでしょう。電波という公共財を最も有効に利
用できる企業だけが、それを使うことが許されるのです。

その他にも革命的なアイディアが一杯です。

例えば、1人1票原則を崩して、投票権を保存することが出来、それを未来の投票に
積み立てることが出来る制度。民主政体の投票において本当にその問題に関心を持つ
人の影響力を拡大することで形骸化を脱しようとする仕組みです。その際に追加分は
4票で2票に換算、9票で3票に換算、16票で4票に換算するという制度になっています。
√は平方根で3乗根、4乗根といった累乗根をradicalラディカルというので、この制度
をQuadratic Voting(QV)(二次の投票=ラディカル・デモクラシー)と呼んでい
ます。

個人間ビザ制度。先進国の住民が途上国の移民の保証人となって、その人を雇用し、
先進国内で労働をさせます。移民が適切な収入を得るのと同様に、本来であれば移民
によって職業を奪われる可能性を持つ人達も移民の雇用主として利益を得ることが出
来るようになります。

Google等のGAFAが無料で集めたデーターで膨大な利益をあげているのに、そのデー
ターを生み出している私達、データー労働者を団結させ、組合を作り、GAFAに正当
なデーター労働の対価を要求しようとする制度。

どれも直ぐには実現は難しいものでしょうが、既に定まった制度が本当に適切なもの
かどうかということを考えるには非常に面白い思考実験です。

例えば「民主政体」とは、より多くの人の意見を集合させた方が、長期的には、より
良い政治選択につながるという仮説のもとに現在、選択されている制度です。

その制度を成立させる道具の一つが「1人1票原則」に過ぎません。そして、それは
既得権として認識され、それを直接奪うことは、ほぼ不可能です。むしろ現代の一定
層の人は民主政体により、帝政や独裁制を選択したフランス革命時のフランス民衆や
ドイツ・ワイマール共和国下のドイツ国民に近い人もいるでしょう。

それに比べたら、二次の投票=ラディカル・デモクラシーの方が、よほど穏当な制度
変更になります。制度が硬直してくると、それ自体が既得権益を生み出してしまいま
す。定期的にシャッフルするくらいの制度の方が長期的に安定的なものになるでしょ
う。

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