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「イエス・キリストは実在したのか?」を読んで

2021年1月12日

イエス・キリストは実在したのか? レザー・アスラン 文春文庫

本書は、イエス・キリストの実像とキリスト教の誕生の実像を描くものである。私
はキリスト教徒ではなく、仏教徒、それも伝統的な宗派というよりも仏陀の思想に
影響を受けている者である。

本書は伝統的なキリスト教徒には非常に不快なものになる。キリスト教はイエスの
教えを歪めているという主張が本書の主題である。この視座は仏教徒としての私の
ものと同じである。現在の日本の多くの宗派、大乗仏教は仏陀の教えとは異なって
いるというのが私の考えである。

本来のキリストの教えとキリスト教、本来の仏陀の教えと仏教、それぞれ原点から
大きく異なってきているという点では両者は同じである。キリスト教になじみがな
い人でも、教祖と教団という視点から見ると宗教一般の問題として本書を読めるの
かもしれない。

本題に戻ろう。以前も私は田川建三の「イエスという男」について書いた。大枠で
は田川とアスラン、両者の認識は一致している。

https://aikidomori.com/post-113/

田川のイエス像は、当時のユダヤ教の支配階級への反発を持ちながらも、それを引
っくり返す革命思想にまでは至らない中途半端で、ある意味で不明確な人物として
描かれている。イエスは明確な未来像は持ってはいない。明確な未来は神が持って
いる。イエスは神への信頼を持っているだけである。

不明確な部分を抱え、イエス自身は神への絶対的な信頼と共に生きていく。イエス
は多くの人に治療を行う。この治療という奇跡がイエス自身に神の意志を確信させ
ていく。そして十字架の上の最期の時に、イエスの神への信頼が絶望へと変わる。

「わが神、わが神、どうして私を見捨てられたのですか。」イエスの最期の言葉で
ある。田川の描くイエスは、そんな姿である。

田川はイエスをキリスト教が説くような死後の世界の救いを語る人物としては拒否
をするが、それに代わる明確な答えを用意していない。田川はイエスを「革命」家
でもないとする。

田川自身は近代人が見るイエスの「革命」思想に近代の平等思想や共産主義思想の
影響を感じている。古代の人間がそのような「革命」思想を持つはずがないという
のが彼の主張だ。

その不明確なイエスの認識は古代人ならばあり得ることで、そのイエスの認識の隙
間を神への絶対的な信頼が埋めていたというのが田川のイエス像である。

レザー・アスランのイエス像は田川より明確である。イエスは「革命」を目指して
いた。それは近代の「革命」ではなく、ユダヤ国家が再び再興され、独立するユダ
ヤナショナリズムを指している。このユダヤナショナリズムは古代でも一般的であ
った。イエスの前後にも多くの人が「メシア」であると称して「革命」運動をおこ
し処罰され殺されている。

アスランのイエス像はユダヤ解放の革命家である。それは当時の為政者、ローマ帝
国への反逆にあたる。それをイエスの死後、パウロがイエスを教えを現世の王国で
はなく死後の王国へと転換させたのだ。キリスト教がローマ帝国内で普及し、生き
残るためにイエスの教えを大きく歪めたのだ。

本書はイエスの姿のみを描いたものではない。半分はイエスの死後の話、イエスの
説いた教えが、どのようにキリスト教になっていくのかが示されている。イエスは
ユダヤ人でユダヤ人を救おうとしたに過ぎない。それを異邦人に普及するため、ロ
ーマ帝国内で生き残るために大きく修正を施したのがパウロなのだ。

イエスの死後、残された共同体はイエスの弟、ヤコブを中心にユダヤ人への普及を
目指していた。その対象に、ユダヤ人以外の人は含まれていなかった。パウロは生
前のイエスの会っていない新参者に過ぎなかった。その彼が主導権を奪うために新
たなイエス像を創造したのだと筆者は主張している。

そしてパウロからローマカトリック教会が生まれていく。パウロが一番の悪人では
ある。ただし、彼もネロによるキリスト教徒の迫害で命を奪われる。悪事の成果の
ほとんどを得ることなく死んでいくのである。

このような宗教の理解は多くの人にとって不快なものになるだろう。筆者のレザー
・アスランはイラン人でホメイニ師のイラン・イスラム革命で米国に移住する。生
まれたときはシーア派イスラム教徒であったが、その後キリスト教に改宗し、現在
はイスラムの神秘主義スーフィズムに近い信仰を持っている。このような経歴だか
らこそ、多くの宗教が彼の内面では相対化されているのであろう。

人間が宗教を理解するとは個々の宗教や宗派の教えに束縛されるのではなく、その
中にある、より根源的な教えを探求することではないかと思う。

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