「生命は宇宙を流れる」を読んで

生命は宇宙を流れる フレッド・ホイル 徳間書店

筆者のフレッド・ホイルは天文学者でケンブリッジ大学天文学研究所の所長を長年、
務めた一流の科学者で、本書は決して与太話ではない。

先ず、彗星の核に有機物が存在するという話。有機物は生物由来なのではと、かなり
おかしな気分になるが、どうやら最近の定説らしい。これが彗星には乾燥したバクテ
リアが大量に存在するという話になると、ちょっと信じられなくなる。

筆者のこの説は彗星の物質のスペクトル分析から乾燥バクテリアが最も分析結果に適
合するということからきている。現時点では彗星から持ち帰った物質から乾燥バクテ
リアが検出されるというような状態ではないのだ。彗星のような天体に探査機を降ろ
すのは小惑星探査「はやぶさ」のミッションよりも難しいであろう。

確かにバクテリアやウィルスが彗星に存在していて、それが地球の生命発生の素にな
ったという説やウィルスが進化に促進しているという説は従来のネオ・ダーウィニズ
ムよりは説得力がある。

現在の進化論は生命は地球上で自然に発生し、その後、遺伝子の突然変異と適者生存
の自然選択により多種多様な生物が発生したというものである。遺伝子の突然変異と
いうサイコロを振って、偶々成功するのを待つとうようなものよりも、ウィルスが直
接、細胞内に侵入することから宿主の遺伝子に影響を与え、深化が進行するという方
が合理的な気がする。

このウィルスが太陽の近くの彗星の軌道上に、ばら撒かれていて地球がその軌道上を
通り過ぎる際にウィルスが大気内に侵入するという話は肯定も否定も出来ない。もし
彗星にウィルスが存在するなら、その仮説は十分あり得るものだ。

ただ、私達はウィルスは地球のどこかに隠れて存在していたり、突然変異で新しい型
になって私達人類や他の生物に感染すると思っている。宇宙から降り注いだウィルス
が生物に感染することが出来るか。その可能性は否定できないが、それと生物間の水
平感染との割合については、全く分からない。

さて、これを読んでいる皆さんも、そろそろ頭がクラクラしてきたと思うが、筆者は
生物の免疫機能についても定説を完全にひっくり返す。私達が普通に考えている免疫
機能とは外部の病原体による損害を防ぐために防御反応として生物が病原体を攻撃し
て排除しているというものだ。

これを筆者は免疫機能は進化の促進のため、細胞が自分から病原体を取り込み、その
遺伝子の抜き出す過程であるとするのだ。確かに、もし病原体から遺伝子を取得する
というのなら、個々の生物を一定の危険に晒しても種としての生物全体としてはウィ
ルスに感染することは十分、利益があることであるというのは納得がいく話ではある。

短期的な防御反応と長期的な遺伝子獲得反応がバランスを取りながら作用しているの
かもしれない。

この話が宇宙塵という宇宙空間に存在する固体の微粒子についての話になってくると
あまりにも途方もなくてついていけなくなる。宇宙塵をスペクトル分析したものと、
乾燥バクテリアが、非常によく似た波長を持っているというのだ。ここから筆者は宇
宙空間にバクテリアが存在していて、それが落下した先の太陽系の各惑星や恒星で生
物として活動している主張にまで持っていく。

筆者の大気の存在する惑星や衛星が原始的な生命に満ちているという話は、私の理解
の限界を超えていて現時点では何も判断は出来ない。その先にはコスミック・インテ
リジェンスという「創造主」を科学的に書き直したものまで出てくるが、この議論は
科学的には肯定も否定も出来ないというものになるだろう。「創造主」が真実か否か
にかかわらず、その問題は科学が取り扱う範囲を超えているのだ。科学は万能ではな
い。

ただ、この話を考えると、新型コロナウイルスに対する考え方も変化してくる。新型
コロナウイルスも個々人の生物としてはマイナスでも人類という種としてはプラスに
なるということもあり得るのである。長期的にはウィルスがもたらす恩恵があるかも
しれない。

先ずは新型コロナウイルスが人為的なものでなく、自然発生で生まれたものであると
仮定する。それならば、この被害を受ける人がどれだけいようとも、私達、人類全体
にはプラスになるという可能性は誰も否定できない。楽観的な気持ちも起きてくる。

但し、これが人為的に操作されたウィルスだとすると、そんな素直な気持ちではいら
れなくなってくる。人為的な遺伝子が人類の遺伝子の中に入ってくることを私は愉快
な気持ちでは見ていられない。

これは直接感染する場合もワクチン接種で抗体を作ろうとする場合も同様に考えるこ
とが出来るであろう。ワクチンは完成して数ヶ月である。長期的な影響は誰も分から
ないのだ。

新型コロナウイルスが人為か自然かは、どうせ私達には絶対分からないものであると
考えるので、これについての議論は不毛であろう。決して結論は出ないのだ。

こうして私はクラクラからモヤモヤに辿り着いた。モヤモヤからスッキリに至る日は
来るのであろうか。

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