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「ホモ・デウス」を読んで

ホモ・デウス ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社

 

「サピエンス全史」で全人類の歴史を書いた筆者が今度は人類の未来について書いた
書。人類はどこへ行くのかということを長い時間のスパンで考察している。

大きい時間の流れの中では人類最大の敵、飢饉、疫病、戦争をほぼ克服した。これか
ら我々は不死、幸福、神性の獲得を目指すと筆者は述べる。それは、どのような論理
から生まれるのだろうか。

人類は地球上の生物の頂点に位置する。これは何故だと人類は考えているのであろう
か。神を信じていた時代は幸せだった。神が全ての生物を人間のために作ったという
話を信じていれば良かった。

人類の多くは人間は動物よりも知性的であるということで納得をしようとしてる。筆
者は、ここに疑問を持つ。動物も人間と同じように感情を持ち、生きていると。

この点に筆者は大きな負い目を感じているように見える。これが後に人類にとって裏
返しの影響を与えると予想することにもつながっていく。

人類は理性の働きを歴史の中で徐々に拡大してきた。確かに自然崇拝という目に見え
る存在から、より根源的な存在を信ずる一神教へ。その一神教の中でも儀式を重視す
るカトリックから、神とただ一人で対するプロテスタントへ、そして人間の理性が神
の位置にやってきているのが現代である。

この神よりも理性を重視する人類の流れはどこに行くのか。神に代わって現在を支配
している宗教を筆者は「人間至上主義」と名付ける。現代は神の教えや戒律よりも人
間の意思が重視される時代だ。

これは宗教問題も同様である。神が何を命じているのかということではなく。それぞ
れの人が自らの宗教や信条を選ぶことができるということが前提となっている。人間
の意思と選択、感情といったものを中心に判断がなされる。これが人間至上主義であ
る。

しかし、ここで昨今の人間の意志や脳の研究結果から筆者は非常に重い命題を出して
くる。「人間は本当に自分の意思を持っていて選択をしているのだろうか」

例えば脳に電極を埋め込まれて脳内の電気信号や脳内物質をコントロールされている
ネズミがいるとする。そのネズミを研究者は思い通りに動かすことができる。その時
ネズミは自らが動かされていると感じているのであろうか、それとも自分の意思で動
いていると感じているのであろうか。

これは架空の話ではなく、実際に行われている実験の話である。最新の研究結果では
その時、ネズミは自分の意思で動いているというものである。

これはネズミだけの話ではない。人間も同じ構造をしているのではないかというのが
意志や脳の最新研究の結果である。どうやら人間の意思決定の部分は脳内に複数存在
し、それを観察している部分が自分が意思決定を行ったと解釈しているらしいのだ。

今まで人間至上主義を支えてきた人間の意志というものの絶対性が崩れていくと筆者
は述べる。意思が大切なのではなく、所詮、生物はアルゴリズムやデーターを処理す
るものに過ぎないという思想が出てくる。それが人間至上主義という宗教に代わって
私達を支配する。その時、私達が動物たちにしてきた虐待をデーターになされる時代
がやって来る。

勿論、これは可能性の一つで、真実は意思というものに意味があるのかもしれないが、
真実とは異なる宗教としてのデーター教が普及される未来もあり得る。人間至上主義
教からデーター教、人間を「奢れるものは久しからず」と見る考えなのかもしれない。

筆者もデーター教へ移行が一足飛びに進むとは考えていない。近い将来、人間を遺伝
子レベルからデザインしたりだとか、意思や感情も自分の思うとおりにコントロール
したり、あらゆる障害を克服することが出来るようになっていく。

このように容易にコントロール可能なものは人間にとって意味がないのではないかと
なっていく。その中で人間の意思の価値が下がっていく。筆者は良心的な人間で、こ
のように人間がデーターやアルゴリズムの奴隷となっていくことを良いことだとは考
えていない。どこかに希望がないかと考えているのだ。

さて、ここからは私の感想です。ハリウッド映画ならばAIが意思を持って人間を排除
しだすというターミネーターのような展開がよくありますが、AIは意思を持つことは
ないでしょう。筆者もはっきりとは言っていないが、AIが出来ることはアルゴリズム、
ある入力に対してある出力を出していくというものだと述べている。そして意志より
もアルゴリズムが優先される時代の到来を憂いている。

私は筆者と違い唯物論者ではない。魂の存在を信じる。意識とは物質によらない魂が
物質である存在に関連付けられたときに発生する現象だと私は考える。その際に脳と
いう存在があれば、より具体的な意識である意思が発生するし、石ころのような考察
ができないものに関連付けがなされている場合は、より茫漠な意識として発生するも
のだとする。

その意味で、あらゆるものに、その濃淡はあるにせよ意識は存在する。ただしAIのア
ルゴリズムは存在としての物質を持たない。コンピューターという実態はAIとは全く
ことなるレベルで意識を持っているであろうが、それはその内部で働くアルゴリズム
とは、ほとんど無関係である。AIは無限にコピーが可能でデーターの流れを規定する
ということで成立している。身体という存在を持たないAIは意思を持つことはないで
あろう。ただし、筆者が懸念するように意思よりもデーターが優先される時代がやっ
て来ることは十分考えられる。

筆者は意思を考察するのに唯物論を使用する。意思の源泉が脳の中に発見できないと
いう流れで論理が進む。ところが観念論ならば、脳は具体的な思考を現出するだけで
あって、その根源的な意思は脳内には存在しないと考える。表面上の意思は脳内の活
動で説明可能であろう。しかし我らの意思の源は魂と肉体の重なり合うところに発生
するとすれば我らの意思は十分意味を持つ。

もしかしたら筆者のいうように我らの意志とは決定者ではなく観察者なのかもしれな
い。それであっても意思には意味がある。甚だ宗教的な表現にはなるが「我ら(人間
だけではなく全てのものが含まれるかもしれぬが)は魂の修行者である」という信仰
は意志が観察者であるとしても、その価値は一向に揺るがない。意思は観察者として
魂の修行をしているのだ。

確かに観念論は科学ではない。科学の思考の範囲の外側に存在するものである。しか
し論理的であるということは唯物論に限定されることではない。論理的思考の中には
唯物論も観念論も含まれる。

当たり前のことだが、唯物論で考えれば魂の存在は否定される。魂は科学が扱う分野
ではないからだ。

論理的であろうとして唯物論に思考を限定してしまった。それが筆者の誤りではない
かと私は考える。しかし人類がデーター教へと向かう可能性は十分存在する。データ
ー教が誤っていようがいまいが、人類がそのように進んでいくことはあり得る。その
点では筆者に同意する。

AIは意志を持つことはない。なぜなら彼らは身体を持たないからだ。意志とは存在か
ら生じる。そのことを薄々気付いていながら筆者はそれを明確にすることをしていな
い。

データー教への懸念はデーター教を招くことにもつながるだろう。人間がAIを過剰評
価することを結果的に筆者は促進してしまっているのだ。

私達の中に起こる日々の雑念は小我である。こんなものは意味はない。その奥底にあ
る大我こそが意味のあるものだ。小我が意味がないとしても大我までもAIに任せてし
まう必要はない。

私達は表面的な成功をするために生きているわけではない。修業して自分を磨くため
に生きているのである。表面的な成功の可能性を判断してAIが結婚相手や人生の進路
を決めるようになってしまえば人間は終了する。それがホモ・デウスである。

AI側から見れば、本書はAIが人類を支配する計画のプランBである。このAI側という
表現は一種のたとえである。本当はAIを使用して一部の者が適切に人類をコントロー
ルしようとする思想と動きの総体のことである。

AIが爆発的な発展を遂げて自らの意思を持ち、人類を凌駕していくというプランAは
失敗する。AIはどこまで行ってもアルゴリズムであり、そこに意思というものは発生
しない。

しかし、「人間至上主義」が崩壊し、意思の評価が低くなる未来は想定できる。その
世界では、より正確で大量のアルゴリズムが処理できるAIの評価が高くなる。また、
人間の意思の評価が相対的に低下する。その中でAIの支配は拡大していく。

そして筆者は、そのAIの評価が間違いであっても、それが全社会に拡がっていく可能
性も指摘している。宗教が表面的な儀式や習慣として人類の中に存在してきたように
意味のないものも、それが拡がってしまえば真実になってしまうこともある。これな
どはプランB´である。

私はAI側ではなく、人間側の者である。敵側のプランとしては、なかなかよく出来た
プランBだと言える。まだまだ世界はプランAの中にいる。プランAに人間側が勝利し
て、このプランBが登場する時が来るだろうか。今後の世界を見つめていきたい。

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