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「日本の医療の不都合な真実」を読んで

日本の医療の不都合な真実 森田洋之 幻冬舎新書

筆者は鹿児島県南九州市の医師です。財政破綻後の夕張市で市立診療所に勤務して
いた経験を持ち、同所長を経て鹿児島で開業した方です。

本書の前半部分は、日本における新型コロナ対応の問題点がどこにあるのかを書い
ています。後半は、その問題点を解決するものとして「プライマリーケア」という
視点から、医療のあるべき姿を書いています。その中では財政破綻後の夕張市の医
療が一つの理想的な姿として描かれています。

先ず、新型コロナウイルスについては感染者も死亡者も東アジア地域では欧米に比
べて桁違いに少ないことを筆者は指摘します。大きく見ると100倍程度の差がある
ように見えます。

これはノーベル賞の山中伸弥教授も唱えている「ファクターX」のことです。この東
アジア特有の原因不明の要因のおかげで結果的に日本はコロナ対策で大きなアドバ
ンテージを持つことになっています。

しかし、そういった有利な状況にも関わらず、日本は医療崩壊の危機が叫ばれてい
ます。これはどういったことなのでしょうか。

筆者はその要因の一つは「民」にあるとします。日本は病院の全病床は多いが感染
症病床はコロナ禍の現在でも格段に少ない状況です。これは日本の病院の7割は「
民営」で、それ以外の公的病院にしても、そこでコロナ病床を増やす権限を厚労省
も日本医師会も持っていないという現実に原因があるのです。

結果としてコロナ禍で患者がこなくて赤字の病院とコロナ患者を受け入れて疲弊し
ている一部の病院が存在する非常にアンバランスな状態がいまの状態なのです。

医療制度を「公」ではなく「民」を中心に構成しているのがその原因であり、筆者
は医療は「公」を中心に作るべきであると提言します。ちなみにドイツは65%が公
立、公的病院となっています。

また、ウィルスの治療法も非常に限定的なものしか存在しないそうです。ウィルス
排除ということは非常に難しく、人類は天然痘ウイルス以外は根絶することができ
ていません。細菌を殺す抗生物質は多くの効果が知られていますが、ウィルスを殺
す薬はほとんどありません。個々人の回復力が最大の武器なのです。

多くの人が期待をするワクチンも今までのワクチンの成果としては、非常によく効
くもの(天然痘)、かなり効くもの(麻疹、結核、ポリオ、狂犬病)、微妙なもの
(インフルエンザ)に分かれてしまっています。新型コロナウイルスのワクチンの
効果がどうなるかはやってみないと分からないでしょう。

後半部分ではコロナ禍で浮き彫りになった日本の医療がどのようなものかが描かれ
ています。

日本の医療の現状を表す一つの資料が提示されています。それは各都道府県別の一
人当たりの入院医療金額表です。この結果が最低金額と最高金額で2倍も異なって
います。都道府県により一定の年齢分布や健康不健康の差異があったとしても、こ
の差は極端です。医療は保険で行われているので各地域の物価動向も影響しません。

この答えの可能性の一つは多くの病院が患者に最適な医療サービスを提供するので
はなく、医療機関にとって最適なサービスを提供しているのではということです。

とはいっても、これは医療機関や医師が暴利をむさぼっているということを意味し
ません。

日本の医療制度は医療費の高騰を抑制するため、診察報酬の単価を抑制しています。
そのため医療機関としては薄利多売の医療サービスを提供することにより運営せざ
るを得ない状態になっています。

その結果、基本的に病院のベッドを満床にしなければならなくなるのです。また不
必要な検査や治療も行われています。それを行わないと病院経営が成立しなくなっ
ているのです。患者もそうですが、医師もその被害者です。一部の医療関係者の勤
務実態はかなり厳しいものになっています。この現実にコロナ禍は拍車をかけてい
るとも言えます。

筆者は財政破綻をした夕張市で診療所に勤めていました。財政破綻後は以前の医療
サービスを提供することが出来なくなってしまいました。それでも医療崩壊は起き
ませんでした。

病床がなくなった分、在宅医療や訪問介護を増加させ、個々の患者に最適なサービ
スを提供するようにしました。本書の中では概要しか書かれていませんが、その結
果、病院で亡くなる人が減り、自宅や特別養護老人ホームで亡くなる人が増えまし
た。

また死因として老衰が増えました。通常の医療では、なかなか「老衰」という死因
は選択できないようで、頻繁に患者を診ることができた結果、自信をもって「老衰」
という選択ができるようになったようです。

筆者はこれを「直す医療」から「生活を支える医療」への変革とします。医療にか
かる患者側も本当にどのような医療を自分が望むのかということを選択するという
意識改革が進んでいきます。

患者が望まない終末医療を極力行わないことで医療の負担も避け、患者も自分が望
む最期を迎えることができるようになったということです。

筆者はこれを「心・体・社会を診る」「プライマリケア」として日本の医療の進む
べき姿として提言します。

さて、ここからは私見です。

東アジア、恐らくオーストラリアやニュージーランドにもあるのではと思いますが
新型コロナウイルスの抑制要因「ファクターX」があるのは間違いないでしょう。
それは生活習慣や人種的要素というよりも、この地域で暮らす人が何らかの免疫を
持っていると考える方が納得がいきます。

そして、その抑制効果が「変異株」等の感染増加要因に対しても一定の効果を持ち
続けるのではないかと思います。免疫由来の要因ならば多少変異したウィルスにも
同様の効果が期待できるからです。

その有利な条件を十分活かしていないのが日本のコロナ対策でしょう。現在の日本
社会は変化に対応できない構造になっています。けち臭いことを言っていないで、
コロナのための医療に予算をもっとつけるべきだと思います。

恐らく将来的に現在の医療体制も支えきれなくなってくるでしょう。公的資金の余
裕がなくなる未来はそれほど遠い話ではありません。

医療関係者がブラック労働で何とか支えている医療制度が終わっていくでしょう。
そんな時でも医療サービスを減少させる中でも最低限の医療制度を守り、患者の本
当の望むサービスが受けられる。そんな未来が来ることを期待します。もちろん患
者も自分がどう死にたいのかということに向かい合うことが必須になります。

「鬼滅の刃」の爆発的な流行は人々の意識が「死」に向かっていることを明確に示
しています。人々の心の奥底にマグマのようにうごめくエネルギーをこの作品は捉
えました。そして、その方向に人々の意識は動き始めた。マグマが地下から湧き上
がってきています。「死」をしっかり考えることでしっかり「生」きることができ
る。「医療」を考えることは「死」を考えることです。私達が今まであまりにも考
えてこなかった「死」に向き合う時がきたのです。

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