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「日本経済予言の書」を読んで

日本経済予言の書  鈴木貴博  PHPビジネス新書

本書では2020年代の未来予測が行われている。一言で本書を表するなら「優秀だが
いけ好かない」ということになる。優秀だというのは、その予測が妥当で、その多
くに私も同意するからだ。ただし、環境問題には同意はしない。

「いけ好かない」というのは筆者の立ち位置が私とは違うところにあるからだ。当
然、同じ現象を見ていても違った思考をするようになる。この同じものを見ながら
違う意見を持つという現象は非常に重要だ。

違う意見という時に多くの人は、そこに感情的な反応を加えてしまい、その前提の
事実の点まで歪めてしまうことがある。感情と事実は完全に分離できるものではな
いが少なくとも、それを最大限発揮するように動くことは未来を見るためには必須
である。

人はなぜ未来を知りたがるのだろう。その理由の一つは簡単である。未来を知るこ
とで利益を得ようと思っているからだ。当然ながら私もそうである。この利益を目
指すという行為は感情に支配されやすい。感情と事実を分離することが大切である。

本稿では先ず本書の事実の部分について論じ、後に感情の相克が生じる部分につい
て論じたい。

本書の目次は以下である。

第1章 コロナショックでこれから何が起きるか

第2章 なぜトヨタは衰退するのか

第3章 気候災害の未来はどう予測されているのか

第4章 アマゾンエフェクトが日本の流通を破壊する日

第5章 確実に起きる人口問題の不確実な解決方法

第6章 半グレ化する大企業とアイヒマン化する官僚たち

第7章 日本崩壊を止めるには

第1章は本書が書かれたのが2020年の4月であるので新型コロナウイルスという刻一
刻と状況が変化する可能性があるものについては、その予測は限定的なものになる
のは仕方がないが、概ね妥当なことが書かれている。

第2章は、トヨタが従来の自動車業界の中ではトップランナーとして活躍しながらも
自動車産業というもの全体が大きく地盤沈下していく未来が描かれている。日本を支
えている基幹産業がこのようになってしまうということは、日本人の多くが想像した
くないことであろう。一言で言えば「ものづくり」というものがお金を生みにくくな
っているということである。良いものが必ずしも売れるわけではなく。シェアリング
エコノミーの中で所有という考え方が大きく変化していく。その未来にトヨタは適合
できるかということが書かれている。

第7章でトヨタの大逆転オプションが書かれているが、トヨタがそのような選択が出
来るとは思えない。大逆転プランはトヨタが「トヨタ」」の名前を消してしまうこと
もいとわず、中国やアメリカの情報企業と対等合併する道である。トヨタがアリババ
やアマゾンの一部門になって大活躍する未来である。こういった情報企業は情報技術
は圧倒的である反面、メカニカルな技術はまだまだであり、トヨタの技術は喉から手
が出るほど欲しいものである。これを高く売りつけることが出来るかどうかである。

未来の希望としては面白いが、やはりトヨタにそのようなことが可能だとは思えない。
やはり第2章のようにゆっくり衰退していく姿の方が、よほど現実的である。

第3章は気候変動が社会や経済に与える影響について書かれている。私は「現在の温
暖化は事実であるが、その原因が二酸化炭素であると断定することはできない」とい
う考えの持ち主である。筆者とは、この原因の部分で意見を異にする。

原因が分からないので保守的な考えを採用して原因の一つである二酸化炭素を抑制す
るのだという主張ならば一理はあると思うが、その際も他の温暖化促進要素と比べて
二酸化炭素軽減が意味があり、実行可能なオプションかどうかは議論しなければなら
ないと考える。

過度な開発は抑制されねばならないが、この種の抑制は人間の首を真綿でゆっくり締
めるものであるという考えは捨ててはならない。この絞められた中で死んでいく人も
当然いるのだ。

新型コロナウイルス対策で経済が縮小し二酸化炭素が軽減されたという議論もあるが
ここで起こっていることは、柔らかくゆっくり首を絞めることである。弱い人は既に
死んでいるだろう。

SDGsとは簡単には首が締まらない地位にいる人達が全員の首を絞めることによって、
自分達に利益を集めようという側面があることを忘れてはならない。もし、それが必
須な計画ならば、はっきりと明言をすることが必要だと思う。

「人類の経済活動は既に持続可能ではないので、これからは徐々に人類を締めあげて
いくことが必要だ。」と。

結局は気候変動に対して抑制と人為的な環境改造と人類の活動抑制をバランスを取り
ながら実施するしかないのかもしれない。

第4章はアマゾンエフェクトといって、実店舗がドンドン、インターネットに移って
いくことが描かれている。恐らく、これは間違いなく起きる未来であろうが、これが
起きると既存の店舗が無くなり、そこの従業員が必要なくなる。多くの人がプログラ
ムに仕事を取られて失業する未来が予測される。本章で紹介されているアマゾンのテ
クノロジーは多くの仕事を消滅させてしまうかもしれない。

第5章は日本の人口動態について書かれています。労働力の高齢化により現在の経済
活動を維持するとすると2030年で850万人が不足するそうです。この問題を解決する
には外国人労働者を増加させるか、65歳から70歳程度の比較的若い高齢者に働いても
らうしかありません。もう一点、AIの発達で3000万人のホワイトカラーの仕事が激減
する可能性が十分高いのです。

つまり、未来は失職したホワイトカラーや外国人労働者や若い高齢者がAIに置き換わ
れないようなブルーカラーの仕事に移動していく姿になります。そして、それが出来
ない場合、ビジネスを畳まねばならなくなります。この状態が続いた場合、必然的に
日本における外国人労働者が激増するでしょう。

少子高齢化の構造は当分変わりませんので、外国人労働者が入ってきて人口ピラミッ
ドが修正されていくか、ビジネスがドンドン閉鎖していって全体で帳尻を合わせる道
しかないような気がします。外国人との共存か、閉鎖か、しか選択肢は残っていない
でしょう。

第6章は企業と政治の未来について書かれています。企業は表面上はホワイト企業で
も実態は「半グレ化」していくものが増えていくとしています。例えば、その企業が
らみで不祥事があったとしても雇用関係や法律上の問題で、その企業には法的な責任
が発生しない場合があります。その企業がそれに対して道義的な責任を取らないで自
らの責任がないものとして活動していく場合も増えてきています。それを「半グレ化」
と呼んでいます。

また政治も他人事ではありません。政治家も官僚も短期的な自分の利益を最適化する
ために全体の利益を無視して動く傾向がドンドン強くなってきています。この最終形
態は「アノミー」です。今まで信じてきた規範が崩壊して人々が何を精神的な支柱と
して生きていけばよいかが分からなくなった状態です。日本の終戦直後の状態が正に
それです。

つい昨日までは軍国主義を唱えていた者が民主主義に媚びを売る。昨日まで、あんな
に立派に見えた人が恐ろしく堕落してしまう。誰も信用できない。自分のよって立つ
信念も無くなってしまった。こんな状態が「アノミー」です。2030年は退廃と堕落の
世になっていると筆者は予想します。

この予測は的確なもので、かなりの確度で実現することでしょう。この予測の評価と
は、全く別に本章は「いけ好かない」という評価を私はします。

この感情は筆者と私の立ち位置が異なることから生じています。私の認識では、この
世の中には社会体制の中に支配層・エスタブリッシュメントが厳然と存在します。こ
のエスタブが民主政体や資本主義といったシステムの中で制度によって正統性を担保
されながら支配を行っているのが現在の社会です。

エスタブに支配される大衆層は民主政体の中でも表面上は民意の選択が出来るような
ものでも、事実上はエスタブの意思が反映した政策を享受せざるをえないというのが
現実です。

昨今の東京オリンピックの問題を考えても、民意の通りには政策は実行されず、一部
の層の利益を優先しているという構造は明らかです。エスタブの判断が大衆の判断よ
り優れているので、そちらに従うべきだという意見もあるでしょうが、それならば民
主政体を変更し寡頭政を明確にすべきです。民主政体を担保するものが制度でしかな
く、その制度もいくらでも骨抜きされてしまうというのが現在の政治状況です。

その意味では多くの一般大衆は古代ローマ帝国の奴隷から連綿とつながる後継者であ
るとも言えるでしょう。ローマ帝国でも皇帝は表面上は市民の代表であるという演技
をしていました。それと本質的には現代の状態は、それほど変わってはいないのです。

何百年か後になって、もし本当の民主政体が実現する時代がやってくるならば、現在
は、そこへの過渡期「擬制民主政体」の時代と評されるでしょう。

この私の認識は明確に大衆側に立つものから発生しています。方や筆者はエスタブ側
に立ち、大衆をエスタブの考える方向に導く広報官の役目を果たしています。昔で言
うなら奴隷を統率する奴隷頭です。

ポピュリズムを敵視し、自民党を擁護する姿勢が本章には出ています。自民党が与党
から転落する際に次の選択肢として(私は愚かな選択肢だと思いますが)橋下徹や小
池百合子が出てくるという予想が書かれています。予想としては妥当です。そして、
その選択肢はエスタブの次善の策としては許容されるものだと考えられているのです。

共産党が与党に入ることなどエスタブには考えられないことなのでしょう。その主張
が、私はエスタブの広報官ですよという態度で表されるならば分かりやすいのですが
そうではありません。

もちろん、筆者もエスタブの利益のために大衆をコントロールしているという意識も
希薄なのでしょう。自らの存在や利益共同体がエスタブの利益と一体化しているので
す。

問題が山積みとは言え、現在の民主政体の問題は大衆の利益になるようには解決して
いかないでしょう。次には中国で行われているようなAIによる管理社会をエスタブは
選択をするはずです。それもエスタブの許容範囲です。

ポピュリズムが湧き上がる根底には、表面上は民意を問われながらも結局はエスタブ
のコントロール下に置かれざるをえない大衆のエネルギーがあります。そのエネルギ
ーをどうにかしてコントロールしようとする筆者の意図が、私が感じる「いけ好かな
さ」なのです。

 

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