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「水源」を読んで

2020年8月13日

水源―The Fountainhead  アインランド  ビジネス社

「非常事態宣言」の中、普段では読めないような長編を読もうと本書を選んだ。
日本語訳で1000ページを超える。

本書は1940年代後半から60年代にかけて、米国で熱狂的に受け入れられた。

当時の時代背景は第二次大戦後、超大国として自信を深め、世界の覇権国へと昇ってい
く絶好調の米国である。

作者はアインランド、日本では、あまり知られていないが、当時の米国では圧倒的な人
気を博した。本書「水源」と同作家の「肩をすくめるアトラス」は、米国大手出版社の
「20世紀の小説ベスト100」の1位と2位になったこともある。

アインランドは1905年ロシア生まれの裕福なユダヤ人。1917年のロシア革命後、一家は
没落、困窮の中、1925年に米国に移住。苦労の末、映画の脚本等を手掛ける。
本書も1943年、出版、すぐ絶版。徐々に人気が広がり米国の国民的作家となる。

この経歴を見て分かるように、共産主義、全体主義に対して批判的な主張を持つ。その
部分が米国国民に受けたのは間違いない。だが、それを超える「米国人の魂の根幹を揺
さぶる自由への渇望と個人への信頼」、これこそがアインランドの魅力の源泉だろう。

本書は表面的にはハワード・ロークという建築家のサクセスストーリーである。ラブス
トーリー要素も散りばめられている。想像もつかないほど、ドラマチックな展開も用意
されている。ジェットコースタームービーの先駆けかと思うほどだ。

それでも本書のメインテーマは個人と社会の問題である。本当に才能がある唯一無二の
個人が、それを押しつぶそうとする社会と正面から闘う物語である。

否、ハワードロークは社会と闘おうとさえ思っていない。彼は自分として生きる生き方
をしているだけなのである。そのために不遇な環境に置かれようとも生き方を変えるこ
とはない。彼はハワードロークとして生きる。

空気を読み、社会に順応することを暗に陽に求められる日本人の多くには、なかなか理
解しがたい人物である。日本人ではハワードロークに共感する人は少ないのではないか。
私自身は日本人の中の少数派です。

他の登場人物も魅力的な人物ばかりである。強いて分かりやすく表現するなら、アレキ
サンダー大王とカエサルとクレオパトラとキリストが同時に登場して愛憎ドラマを繰り
広げるようなものである。日本では、これほどキャラが強い人が受け入れられることは
まずない。

これに比べたら日本の小説や映画やドラマのテーマは、小さな共同体の中の物語でしか
ない。大上段から社会を論ずるような話は受け入れられない。日本人は社会を変えるこ
となど出来はしないと思っているのだ。長い歴史を持つ日本は老成化している国でもあ
る。

私は本書から40年代から60年代の米国人の強さを見た。当時の米国人は、こぞって、こ
の長編小説を読み漁ったのだ。その多くが個人として超然と屹立するハワードロークの
生き方に賛美の声をあげ、生き方の理想像としたのだ。

覇権国になる国の国民とは、このようなものかと感じた。その国の時代の精神が本書に
は描かれている。そして、それが米国に戻ることは、もはやないであろう。米国の国民
の精神も壊れている。

2020年現在、覇権国の時代の精神は中国に移りつつある。次は、中国の時代の精神を表
している本を読まねばならない。

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