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E-mail Magazine Archive(23/Sep./2019)

2020年8月13日

森智洋の部屋メールマガジン 第98号の記事の一部です。

ナチス・ドイツのことを知りたく、2冊の本を読んだ。

ナチスの戦争 1918-1949 リチャード・ベッセル 中公新書
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ヒトラーとナチ・ドイツ 石田勇治 講談社現代新書
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ナチス現象は、ある特殊な状況で生まれたという特殊的要素と、どの時代でも成立する
という普遍的要素から成っていると感じた。この二つを区別して理解することがナチス
の経験を後世に活かすことだと思う。

ドイツは第1次世界大戦に敗北する。その結果、ヴェルサイユ条約が締結され、ドイツ
は領土割譲や多額の賠償金など、大きな重荷を背負うこととなる。

戦争前の栄光の時代であった帝政は戦争末期に崩壊し、ドイツ国民は強烈なアノミー状
態に置かれる。アノミーとは社会の規範や秩序が崩壊した混沌状態をいう。日本も第2次
大戦後、この状態に陥っている。それが、いつまで続いているかは諸説ある。

このアノミー状態で、ドイツ国民がみな持っていたのは、ドイツを縛るヴェルサイユ体
制への反発と、そのひどい戦後体制を維持するワイマール共和国への不信感であった。

そして「後ろからの匕首」という言葉もドイツ国民の心の中に刻まれていた。ドイツ軍
は、まだまだ健在で戦うことが出来たのに、銃後の共産主義者やユダヤ人が革命を起こ
してドイツは敗北してしまったという神話があった。この神話自体は欺瞞性の強いもの
だが、それを信ずるドイツ国民も多くいた。

その特殊状況の中でドイツ人は社会階級や宗派を超える、民族共同体(フォルクスゲマ
インシャフト)を強く求めていた。若者には軍隊的な規律を求める動きもあった。

リチャード・ベッセルの「ナチスの戦争」では、そういったドイツの特殊性が強調され
ている。

同時代のドイツが秩序を生み出す暴力を称賛する空気に包まれていた。その産物として
のナチスなのだと。

この特殊性だけを見るとナチス現象は過去の特殊な遺物で現代に復活することはないと
いえる。

方や「ヒトラーとナチ・ドイツ」は、その普遍性を提示する。ナチスは決してクーデタ
ーで政権を取ったわけではない。

ワイマール共和国の政治手続きに沿って、ドイツ国民の支持のもと、政権についた。
最初は連立政権の一翼で主要ポストは他の保守政党に握られていた。そこからナチスの
政権奪取が始まる。

元々ワイマール憲法には欠点があった。例えば大統領緊急令を使えば議会を無視して法
律を通したりすることもできた。そして国会議事堂炎上事件を期に国家の緊急事態とい
うことで出された「ドイツ国民を防衛するための大統領緊急令」で集会と言論の自由に
制限。政府批判を行う政治組織の集会、デモ、出版活動の禁止した。

次には左翼の議員を投獄したまま全権委任法を議会に通し、行政府が立法権を持つよう
になる。左翼と右翼も弾圧され、政党は解散させられるかナチスに吸収されていく。政
党新設禁止法によりナチスの完全な独裁体制が完成した。

ナチスはワイマール憲法の抜け道を強引に通り、国民にも緊急事態であるということで
独裁を確立した。法の本来の目的から逸脱した使い方をしたのだ。そして、その逸脱も
国民が許してしまった。

個別の政治家や活動家への暴力は続けられたが、それらも報道されなければ、なかった
ことと同じである。一定の性善説で出来ていたワイマール憲法を悪意をもって崩壊させ
たのだ。

この普遍性の恐ろしさは、正統な法制度も悪意を持って恣意的に解釈すれば、為政者の
思い通りに進めることが可能だということだ。

現在の日本ではナチス勃興時のような「暴力的なものに対する支持」があるとは思えな
い。ただし、それよりも弱いかたちで「日本としてのアイデンティティ」を強固に求め
る層がいるのは事実である。「嫌韓」「嫌中」といった書物の売れ行きがよいことも、
そのエビデンスである。

日本が徐々に貧しくなっていき、隣国にも経済的に抜かれ、今までの安全保障体制も変
化していくなかでの不安が根底にあるのだと思う。その際に為政者が法律を恣意的に使
うことにより、独裁体制を作り上げる可能性は十分考えられる。

その時、出来上がるのは、ナチスよりもずっと不徹底な独裁体制である。そして戦前の
日本もナチスに比べれば、全く不徹底なファシズム体制だったのである。

戦前の不徹底なファシズムは現在の日本でも十分、再生可能なのです。

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